NPO法人訪問理美容ネットワークゆうゆう理事長 西岡貢
母が認知症のため福祉施設で生活をするようになり、美容師の妻と定期的に見舞いに行く中で、妻が「お母さんここで髪切ろうか?」と母に美容をするようになりました。
母もうれしそうに椅子に座ってご機嫌でした。髪を切ってから口紅を差し、妻が「お母さんべっぴんしゃんになったよ!」と言うと、母は嬉しそうに笑っていました。美容を行う母が次第に元気になっていく様子に驚いた施設長さんから、施設の他の皆さんの美容もして頂けないだろうかと相談があり、それからは定期的に訪問して多くの入所者の皆さんの髪を切って喜んで頂きました。
女性にとっての美容行為は衛生面や容姿の美しさだけでは無く、心の淡麗まで深くかかわり、希望を与えているのだと感じるようになりました。
どこで暮らしていても、母のようにいつまでも女性は女性らしく美容師の施術で綺麗になって頂きたいという想いから活動を続けています。
「訪問理美容でキレイと元気を届けたい!」をテーマにこれまで13年間、中山間過疎地域や離島の訪問活動をしてきました。お蔭様で多くの方の応援を頂き、ここまで来ることが出来たことに感謝しています。
この活動を開始した時は、丁度少子高齢化が始まる時代でした。また、阪神や東北の大震災を受けて社会の意識が大きく変わり、ボランティア活動に参加する若者が増えて、社会がそれを温かく受け入れていく環境が育成されてきました。
これからの時代はますますボランティア活動やNPO活動が社会の一部を支えていく時代になり、自分自身の出来る事をお互いに地域に提供して、これまでは行政や自治体に任せていた事を自分たちがネットワークを作り、地域課題を解決していく必要性が増してくるのではないでしょうか。
訪問理美容活動をしていると、高齢の方の中には時々、「お化粧がめんどうくさい」とか、「美容は必要が無い」と言われる方がいますが、一度訪問理美容を利用すると、意外にもそのような方々が、「綺麗になったねえ!」と言ってお互いに笑顔を交わしています。
また、杖をついている高齢の方に着物を着て頂いたところ、背筋をピンと伸ばして歩いていく光景を目の当たりにしました。どんなに年齢を重ねたとしても、髪を綺麗にし、着物を着ると、女性の中にある独特の美意識や感性が呼び起こされるのだと思います。
実際に医学の分野でも、美容による認知症予防を研究して成果を出しているという事例もあり、高齢者の心身を健やかに保ち、ひいては地域社会を元気にする可能性が、訪問理美容活動にはあると思っています。
これからの時代には、医療や看護に次いで、訪問理美容が必要とされるようになると考えていますが、多様化する高齢化社会のニーズにどのように応えていくかが大事だと思います。
人材の確保と活動先のエリアの拡大は現在も課題ですが、訪問理美容活動に参加してくれる理美容師さんが増えてきたことが弾みになっています。今後は、このような地域の理美容師さん達と一緒に、講習会等を通して連携を取りながら、訪問理美容師の育成とネットワークの構築に尽力したいと思います。